『アルプスとリビング』

早稲田大学演劇倶楽部第32期新人企画

所詮定期を首から提げている奴の書いた文章なのよ/鈴木

丁寧に生活しなさい、ということを言われて育ちました。
 
 
 
母親にその言葉を言われるたびに、自分のものが散らかっていることを注意されたと思って、渋々自分のものを箱にがさーっと戻していました。
 
 
丁寧に生活しなさい、その言葉の本当の意味、というか母親が本当に言いたいことを理解できたのは、結構最近です。私にとって、なぜ生きるのか、みたいな疑問はとても大きくて、重くて、くよくよしちゃうんですけど、生きる、というのはやっぱり大きすぎるんです。
自分にとって大切なことは生きる、じゃなくて生活する、ことじゃん。生きる、というのは生活の圧倒的な堆積でしかないんじゃん、なんて、今更思うんですよね。
 
 
 
「アルプスとリビング」という演劇を観てどう思うかとか、どういうところが気になるかとか、何が伝わるのか、なんて私にはわからないんですけど、とりあえず、やってやる、ということだけなんですけど、私はこの演劇をやりながら「丁寧に生活しなさい」ということを考えてしまいます。
 
 
 
お腹が空いたなあ、とか。
雨の匂いがするなあ、とか。
お気に入りのミニーちゃんのマグカップでコーヒーを飲む、とか。
頑張ってる自分にゆずレモン茶を自販機で買う、とか。
友達との集合時間を手帳に書いておく、とか。
ユーミンを聴きながら支度をする、とか。
明日何を着るか考える、とか。
提出書類に綺麗に印鑑を押す、とか。
あと5日で定期が切れるなあ、とか。
追いだきしてちゃんとお風呂に入ろう、とか。
今日は10時に寝ちゃおう、とか。
芥川龍之介読もう、とか。
 
 
 
そういう生活における丁寧さがいかに難しくて、大切なことなのか。丁寧に生活を紡ぐことがいかに、尊いことなのか、がこう身にしみて感じられるわけです。
 
 
 
残念なことに、私はとても忘れっぽい性格です。
性格、というかもはや遺伝です。母親も母方の祖母も忘れっぽいです。すぐにものを無くします。
提出書類とか、鍵とか、定期とか、もう気を抜くとなんでも無くします。
 
いや、大事なものなのでね、大事な、大切な、特別な所にしまっておこう、と思うんですけど、その場所がどこだったか忘れてしまうのです。
 
 
あと、ガサツですね。
荷物がとても多いんです、常に。だいたいパンパンになったリュックと、めちゃ大きい手提げを持ち歩いています。ときには反対の手に弁当袋とかも提げてたり。
 
なぜか、雨の日には荷物が増えます。雨に濡れたとき用の着替え、とか、拭くためのタオルとか、持って行こう、どうせならもこもこしたかわいいタオルがいいな、とか思うからです。だから傘でもさそうものなら大変です。片手で傘をさして大きな手提げをいくつも反対の手で持って、パンパンのリュックと手提げがもうビショビショです。中のものまで。目的地についた頃には自分に絶望します。
 
 
 
 
昨日なんか絶望したまま大量の荷物と共にトイレに行ったら持っていたケータイがするっと滑って水没しました。もう絶望の絶望です。
 
 
 
 
丁寧に生活する、とは程遠いですね。
 
 
 
当たり前のことをスマートにやってしまう人なんてたくさんいるんですけど、そういう人のスマートな所を見るたびに、自分と比較して悲しくなってしまいます。だから時々、荷物が多い人とか、意外と片付けられない人とか、鍵を無くしちゃう人とか、会うと勝手に好きになってしまいます。
 
 
 
 
 
…あ〜あ、でも私はもう諦めることにしました。忘れっぽいこととか、ガサツな所とか、直らないから、対策を考えることにしました。それで最近は定期券と学生証を最高にダサいクリアケースに入れて常に首から提げて生活しています。
 
もうケータイもするって落とさないように首から提げておきたいです。
 
 
スマートなかんじ出すの、もう無理です。そうやって自分なりの丁寧さを探さなくちゃいけないなと思うのです。
 
 
 
アルプスの綺麗な稜線も大好きだし、リビングのカーテンから差し込む日差しも好きだし、それ以外の改札とかコンビニとか教室とか鏡とかストーブとか動物園とかも好きです。
そういう生活を丁寧にしたいです。
 
 
 
 
 
なあんてね。めちゃくちゃ真面目に書いてますけど、最近のご飯はコンビニで買ったものばっかりだし、家に帰るのも日付変わるギリギリだし、夜中に甘いもの食べたくなっちゃうし、自分のもの散らかって妹に怒られるし、そういうよくない生活を送っています。
 
 
 
 
はいはい。
全力の体育座りでお待ちしています。
もうもうもう全力です。みんな。スタッフの方々には本当にもうもうもう感謝感激雨あられです。私たちが稽古場でああだこうだ言っていたことがちゃんと形になることに驚いてしまいます。
悲しいとか寂しいとか言ってる場合じゃない、とりあえずの全力でやりますよっ!来てね!
 
まあね。
所詮そんな人間ですよ。
所詮小屋入り3日目ですよ。
所詮3月の終わりの週末のことですよ。
所詮アルプスとリビングですよ。
ね。
 
 
色々諦めて残ったものを丁寧に、皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。