『アルプスとリビング』

早稲田大学演劇倶楽部第32期新人企画

とびだせ!記憶力!/八杉

八杉です。

 

新人訓練の時期、毛皮のマリーズドレスコーズばっかり聴いていた私は、今、毛皮のマリーズドレスコーズを聴くと、必ず新人訓練のことを思い出す、悲しい体になってしまいました。軽いアレルギー症状です。志摩遼平の顔を見ただけで、お尻を叩かれるような気分になるので、なんか頑張りたい時は、志摩遼平の写真を携帯の待ち受けにします。今もそうです。

 

高校生の頃、あまり音楽を聴かない、というか、音楽を聴くことをあまり必要としない男の子のことを好きになりました。彼が聴く数少ない音楽と、私が好きな音楽で唯一共通していたのが相対性理論で、その恋の最中は相対性理論ばっかり聴いていたので、今でも相対性理論を聴くと必ずその時のことを思い出します。失恋した直後は、もう絶対、相対性理論、聴けなかったんですが、今ではもちろん、全くなんのダメージも無くなりました。相対性理論聴くと、その時のこと思い出すのに、もう痛くもかゆくもなんともありません、もう歌って踊れます。それはそれで悲しい話のような気もしますが、結構どうでもいい話です。

 

そうそう、だから、音楽っていうのは、それを、たくさん聴いていた時期の、記憶を呼び出す、きっかけに、なりやすいですよね、っていうことが、言いたかった、んですよね。その曲を聞かなければ、二度と思い出さなかったであろうこと。たとえば、わさびのチューブを一本丸呑みした時の味(というか痛覚)とか、振られた日にやけくそで読んだ谷川俊太郎の詩集の匂いとかの、絶妙にいや〜な思い出とか。逆に苦しい時に久しぶりに会った友人の元気が出る言葉とかの、絶妙にあったか〜い思い出とかを、音楽はひとおもいに、じわじわと、あるいはバーン、ドーン、ドッカーンと、思い出させてくれます。

失恋して、谷川俊太郎の詩集読むのすごくないですか、しんどい。

 

 

音楽だけじゃないですね、本でも映画でも演劇でもなんでもそうだと思います。

作り手の誰かの経験の追体験なんだけど、自分の過去に感じた感情の追体験とも言えるというか。記憶を呼び出すきっかけなんだと思います。普通に朝起きて、ご飯食べて、学校行ったり仕事行ったり、一辺倒になりがちな毎日の中で、忘れてしまいやすい感情を効率良く思い出せる手段というか。本を年に何百冊も読む人と、全く読まない人とでは、動いた心の総量がまるっきり違うと思います。本とか映画とか演劇とかに触れることは、短い時間の間で、それ相応の実体験をしなくても、それ相応の感情を経験できます。実際に不倫相手の子供を誘拐したり、朝起きたら毒虫になっていたり、朝起きたら入れ替わっていたり、しなくても、自分が過去に感じた感情の記憶を組み合わせて、想像することで、その時の感情を疑似的に経験できます。

芸術(??)に触れることは、動く感情のコスパが、コスパがいいっていう、そういうことです多分。わからないけど。

 

(わからないけどってすぐ言っちゃうの無責任ですよね、わからないけど。)

 

(こうやって客観的に自分を無責任とか言っちゃうのも無責任ですよね。言っちゃうけど。)

 

そうそう、だから、音楽とか本とか映画とか演劇とか、そういうことで思い出す感情があるということは、それまで忘れている感情があるっていうことを、言いたかった、んですよね。

 

 

今もめちゃくちゃそうです。「アルプスとリビング」を、必死になって、作っているうちに、気付いたら忘れてしまっていたこと、めちゃくちゃあります。書き始めた段階では確かに動きまくっていた感情が、言葉になった途端色を失ったり、稽古をしている段階では確かに鮮やかに面白かったことが、繰り返しているうちに何が面白いか分からなくなったり。

 

でも大丈夫だなって思います。そういう、忘れたくないこと、忘れてはいけないことを思い出すきっかけが、ここにはたくさんあります。

まず、役者のみんなが書いてくれている、稽古場ブログがそうです。自分の視点ではわからなかったこと、一緒に稽古しているだけでは伝わらなかったことが、言葉になって見えること。ああ、そうか、この人はこんなことを考えていたのか、という驚きや安心やショックが、重みと温度を持って現れるので、ハッとします。

それから、役者が稽古中とか休憩中とか帰りとかに見せる素の顔を見ると、いろいろ思い出せます。もともと、楽しい、とか、好き、とかそういう理由で始めたことによって、逆に不安になったり、見えなくなったりしているとき、「はいはいはい、大丈夫ですよ」と戻してくれる瞬間がいくつもあります。「危ない危ない、忘れてた」っていう感じの、好きだな、とか、楽しさ、とか、暖かさがあります。好きだな、よかったな、とか、なります。

あとこの間、知らないおばあちゃんと仲良くなってお守りをもらいました。それから、道を歩いていて、赤ちゃんの靴がかたっぽだけ落ちていました。そういうことに出会っても、いろいろ思い出します。そういう小さいことこそ、大事な感じがします。

全部は言わないけど、他にもいろいろいろいろあります。とにかくね、初心は大事です、という話です。定期的にね、リセットしていかないとね、腐っちゃいます。

 

そうそう、だから、初心が大事です。このブログ、ここだけ読んでくれればいいです。

 

 

はいはいはい、こういうね、大ぶりでエモーショナルな言葉を使っているとね、また忘れてしまったりするんですよ。書いているとき忘れていても、冷静さを思い出してから読むと、恥ずかしかったりするんですよ。知ってますよ、私は。すーぐ恥ずかしくなっちゃうんですから。

あ〜やだやだ。

 

すでに恥ずかしいので、蒙古タンメンの話、していいですか?しますよ。行きますよ。

あのー、私、辛いもの苦手なんですけど、ついつい買ったり注文したりしてしまうんですよね。苦手なんだけど好きなんですよ。ないですか?ありますよね、そういうこと。なんか辛いものってね、お得な感じがするんですよね。やっぱり味がしないものよりはね、味がするものの方がいいですよね。あれと一緒です。あのー、なんですか、あのー、0カロリーのコーラより、0カロリーじゃないコーラの方が美味しいよねっていう、そういう話です。そうそう、そういう話がしたかったんですね、私はずっと。

 

そうそう、だから、コーラは0カロリーじゃないほうがいい。やっぱりこのブログ、ここだけ読んでくれればいいです。

 

 

 

忘れていました。「アルプスとリビング」本日初ステです。

 

忘れていたいろんなことを思い出して、新鮮な気持ちで、頑張っていきたいですね。お客様、スタッフの皆様、役者の皆様、などなど、大切な人たちへの感謝も、鮮やかです。「アルプスとリビング」が少しでも、何かの記憶を呼び出すきっかけになってくれたらいいな、なんて思います。

 

それでは、全力の正座にてお待ちしております。