『アルプスとリビング』

早稲田大学演劇倶楽部第32期新人企画

普通の食欲/ヤスギ

ヤスギです。早いもので、2週間後にはもう小屋入りしているそうです。

 

さっき、小屋入りまでの2週間という時間を、コンビニのパンの棚の前で、メロンパンを食べるかつぶあんぱんを食べるかこしあんぱんを食べるかで延々悩むことで浪費しておりましたら、スーツを着た男の人が、風のようにやってきて、瞬時にパンを選んで颯爽とレジに並んで行かれました。彼の手にはしっかりとたまご蒸しパンが握られていました。

 

 

これだ、と思いました。

 

何が、これだ、なのかはいまいちよくわかりません。

 

けどなんか、これだ、っていう感じがしました。

 

たまご蒸しパンは甘いです。想像の20倍くらいの糖度です。最初の3口くらいは「なんだこの美味しさは、毎日食べたい」と思えるのですが、食べ進めるうちに飽きてきて、「もうあと1年くらいは食べなくていいや」と思います。そして3か月後くらいに「あと1年くらいは食べなくていいや」と思ったことを忘れてまた食べます。そして、「わ、美味しい」と思った3口後に「あと1年くらいは食べなくていいや」と思います。

あれは1年に一度食べる系の食べ物です。例えばなんかそういう、なんかの節句、みたいな日に、「よーし、今日は、なんとかの節句、だから、たまご蒸しパンを、食べよう」みたいな、そういう系の食べ物です。恵方巻きみたいな。ひなあられみたいな。

私は節分に恵方巻き、食べません。恵方巻きも食べてる途中で飽きます。長いから。今年の節分は南南東を向いて、無言で、恵方巻きの代わりにバナナを食べました。バナナは恵方巻きよりは短いので。

 

いや、彼は間違いありません、あの決断の速さはきっとたまご蒸しパンを毎日食べている人です。信じられない。「よし、今日もたまご蒸しパンを食べよう」の速さです。コンビニに入って脇目も振らずパンの棚へ向かい、脇目でたまご蒸しパンの位置を確認すると、蒸しパンを目視せず掴み取り、流れるようにレジへ。芸術点がすごい。あの糖分を一挙に摂取して「また明日も食べよう」と思える精神力。体力。

 

この人との邂逅ののち、私はまた自分の食べたいパンを探します。全然食べる気無いのにおにぎりの棚とかも一応見ます。結局今日はメロンパンにしました。レジに並びながら「そんなに食べたく無い気もする」と思いました。優柔不断です。コンビニにいるときは常に自分の食欲が満たされる時のイメージで頭がいっぱいです。しょっぱいものか甘いものか、炭水化物かタンパク質か、あったかいものか冷たいものか。コンビニの棚をくまなく見つめながら、自分と相談します。食べ物じゃない棚も一応見ます。蛍光ペンとか、封筒とかコピー用紙とかの棚です。

 

だからコンビニに入る前から自分の食べたいものがわかっている人、ましてそれがたまご蒸しパンの人。異文化人です。やっぱり面白い人間関係とは異文化交流から始まりますよね。かといって私は別にその人に声をかけたりしません。私は普通の人なので。

 

ここでいきなり普通とか面白いとかの話をします。まず「普通ってなんなんだよ」っていうところから始まるのが普通だと思うのでそうします。普通っていうのは例えば、知らない人にはむやみに声をかけない、とか、わからないことがあったらgoogleで検索する、とか、チャーハンが好き、とかだと思います。でも例えば、チャーハンが好きな人の中でも、チャーハンが好きすぎて、チャーハンをおかずにしてご飯を食べる人がいたら、普通じゃないです。大体の人に面白い人って言われるタイプの人です。私は友達になってみたいです。私はそういう面白い人見ると大抵緊張します。

 

普通っていうのはだから、単純に、人間をいくつかに分類した時に、人数が多い部分に当てはまるっていう、それだけな気がします。チャーハンを好きな人はいっぱいいるから普通。チャーハンをおかずにしてご飯を食べる人はそんなにいないから面白い。当たり前ですかね?

面白いっていうのはだから、「これが好き」とか「これが嫌い」とかいう思いが高じて、独自の欲求に従って最大のパフォーマンスを発揮出来る形を探求できるっていうことなんでしょうか。ちょっと何言ってるかわかりません。俺はたまご蒸しパンが好きで毎日食べているから、なるべく短いタイムで、なるべく美しい身のこなしで、たまご蒸しパンを購入する。そうすることで俺の欲求は最大限満たされる。みたいなことですか?

 

 

 

一方私は、生まれてこの方、普通コンプレックスというのを抱えてきた人間で、自分が普通だと思われたくないっていう、面白い人になりたいっていう超普通の感性を持っています。でもやっぱりそう思ってる人は超いっぱいいるわけで、そこで終わらせたら超普通な人なので、よりコンプレックスです。面白い人になりたいっていう欲求に従って赴くままに、こう、なんか、こう、すればいいんでしょうか?

 

とか言いつつ私は最近、普通であることをやっと受け入れられるようになって、というか、普通、幸せだなって思います。だって人数が多いから。普通の人が生きやすい世の中です。まあ、生きやすいかと聞かれたら、「生きやすい!」とかいうのなんか悔しいから、難しい顔しますけどね。普通なので。

 

 

 

 

 

とかなんとかごちゃごちゃごちゃごちゃ言っておりましたがこれは稽古場ブログ。本日も楽しく、稽古しました。面白いとも言えるし普通とも言えるみんなを見て、ゲラゲラ笑いながら稽古できて幸せです。明日も楽しみです。

 

 

 

 

今、たまご蒸しパンの人が普通の人である可能性を見つけました。たまご蒸しパン、毎日食べてるわけじゃないかもしれません。私と同じように、一年に一回くらい食べたくなる人で、今日がそのなんかの節句だったかもしれない可能性、あります。

そしたら親近感わきます。なんか食べたくなってきたので明日はたまご蒸しパンを美しく購入したいと思います。おやすみなさい!!